
アスベストは現在では原則禁止されています。しかし、2006年以前に建てられた建物には、いまだにアスベストが使われている可能性があります。とくに壁材には使用されやすく、目に見える部分でありながら見分けるのが難しい素材です。本記事では、アスベストの基礎知識から注意が必要な場所、壁の見分け方までをわかりやすく解説します。
そもそもアスベストとは
「アスベスト」という言葉を耳にする機会は多いものの、それがどのような物質で、なぜ問題視されているのかを正確に理解している人は意外と少ないかもしれません。ここでは、アスベストの正体とその危険性について、基本から見ていきましょう。
アスベストの正体と特徴
アスベストは、天然に産出される繊維状の鉱物です。非常に細かい繊維をもち、耐熱性・耐久性・絶縁性に優れていることから、長年にわたり建築資材や工業製品として広く使用されてきました。
とくに建物では、断熱材・防音材・耐火材などとして、屋根・壁・天井・配管などさまざまな部分に使われていました。アスベストには主に、クリソタイル(白石綿)、アモサイト(茶石綿)、クロシドライト(青石綿)の3種類があり、それぞれに異なる特性がありますが、共通するのは吸い込んだ際の健康リスクです。
健康被害の深刻さ
アスベストの繊維は非常に微細で空気中に浮遊しやすく、吸入すると肺の奥深くまで入り込んでしまいます。体内に取り込まれたアスベストは排出されにくく、長年にわたって蓄積されることで、肺がん、中皮腫、アスベスト肺などの重篤な病気を引き起こすとされています。
これらの病気は、発症までに数十年の潜伏期間がある場合も多く、症状が出たときにはすでに手遅れになっていることも少なくありません。このような深刻な健康被害が明らかになったことから、日本では2006年にアスベストの製造・使用が全面的に禁止されました。
アスベストに注意する理由やよく使用されている場所は?
アスベストによるリスクは、健康被害だけにとどまりません。現在でも多くの建物にアスベストが使用されている可能性があり、適切に対処しないと法令違反や近隣トラブルに発展するおそれもあります。ここでは、アスベストに注意が必要な理由と、とくに使用されやすい場所について確認しておきましょう。
飛散による吸入リスク
アスベストは、使用されている状態では比較的安定していますが、老朽化によるひび割れや剥がれ、あるいはリフォーム・解体工事などによって建材が破損すると、微細な粉じんとなって空気中に飛散します。
この飛散した繊維を吸い込むことで、深刻な健康被害を引き起こす可能性があるため、作業前の事前調査や適切な防護措置が不可欠です。知らずにアスベスト含有箇所に触れてしまうことがリスクにつながるため「どこに使われている可能性があるのか」を把握しておくことが何よりも重要です。
アスベストが使われやすい場所
建物のさまざまな箇所にアスベストは使用されてきました。とくに多いのは外壁や屋根材で、波型スレートや石綿セメント板と呼ばれる建材に含まれているケースがあります。
また、天井や内壁には吹付け材として使われていた例もあり、表面に綿状の質感があるのが特徴です。床材の接着剤やタイルの下地、配管の保温材など見えにくい場所に使われていることもあるため、全体の構造を把握する視点も必要です。
アスベスト含有建材の壁の見分け方
壁に使用されている建材にアスベストが含まれているかどうかを見分けるには、いくつかの確認ポイントがあります。ただし、目視だけでの判断には限界があるため、安全確保のためには専門的な調査が欠かせません。まずは、一般的な見分け方のポイントを押さえておきましょう。
築年数と使用建材の傾向
建物が建てられた時期は、アスベスト含有建材の可能性を知る重要な手がかりとなります。2006年以前に建てられた建物はアスベストの使用が認められていたため、その範囲で使用されていた建材がそのまま残っている可能性があります。とくに1980年代以前に施工された建物は使用割合が高く、注意が必要です。
外観や質感による判断
アスベストを含む壁材には特徴的な外観があります。吹付け材は表面が柔らかく綿状で、触ると崩れやすいことがあります。石綿セメント板は硬くて重く、表面にざらつきや光沢のない質感が見られることが多いです。
ただし、近年は非アスベスト製品でも類似した外観のものがあるため、見た目だけでの判断は難しい場合があります。
設計図書や専門調査の活用
建物に残っている設計図や仕様書から、使用されている建材の種類を確認できることがあります。明確に製品名やメーカー名が記載されていれば、それを手がかりに調査が進めやすくなります。
それでも判断がつかない場合や資料が残っていない場合は、専門業者によるアスベスト調査を依頼するのが最も安全で確実な方法です。
まとめ
アスベストは、かつて優れた建材として広く使用されてきましたが、吸入によって肺に深刻な健康被害をもたらす危険性のある物質でもあります。2006年以降、日本ではその製造・使用が原則として禁止されていますが、それ以前に建てられた多くの建物には、現在もアスベスト含有建材が残されている可能性があります。とくに壁材は日常的に目にする場所でありながら、アスベストの含有を見た目だけで判断するのは非常に困難です。築年数や建材の種類、外観の質感、設計図書などからある程度の判断は可能ですが、それだけでは不十分です。確実な安全対策を講じるには、専門業者による調査が不可欠です。専門の知識と機材をもつ業者であれば、正確な分析と状況に応じた対応が可能であり、必要な法的手続きや安全対策も一貫して任せることができます。ご自宅や所有している建物に少しでも不安を感じたら、早めに専門家に相談することをおすすめします。適切な対応を通じて、住まいの安心と安全を守りましょう。