アスベストは「奇跡の鉱物」とも呼ばれ、そのすぐれた断熱性能などにより、建材として広く使用されてきました。しかし、危険性が高いことが判明し、社会に大きな影響を与えたため、法律により規制された歴史があります。アスベストそのものについてや、その危険性、規制の歴史について考えてみましょう。
アスベストの使用とその影響
アスベストは、ほぐすと綿のようになる繊維状鉱物です。その繊維は極めて細かく、耐熱性、耐久性、耐摩耗性、耐腐食性、絶縁性などにすぐれる特性があります。
この特性から、アスベストは工業製品の原材料として幅広く利用され、建材などさまざまな製品に組み込まれていました。その優秀さから、奇跡の鉱物と呼ばれることもあったほどです。
しかし、一方でアスベストには石綿肺、肺がん、中皮腫、びまん性胸膜肥厚などの肺の疾病の原因となる、高い有害性があることが判明しました。アスベストの繊維は非常に細かく、作業時に飛散して吸引されやすいのが特徴です。
そのため、肺胞に長期間滞留して肺がんや中皮腫を引き起こす一因になると考えられています。アスベスト関連の疾病の典型的な例として挙げられる悪性中皮腫は、ばく露から20年から50年程度の潜伏期間を経てから発症するとされています。
このように、アスベストの悪影響が認識されはじめ、度重なる法律による規制を経て、現在では全廃に至ったのです。
アスベスト規制の歴史とその段階
アスベストは、そのすぐれた特性から広く利用されてきましたが、その有害性が明らかになり、徐々に規制が進んできました。現在では、作業員の安全を守るため、アスベストの使用は厳しく制限されています。規制の歴史を確認していきましょう。
1960年代
1960年にはじん肺法が制定され、労働者の健康管理が始まりました。アスベストはじん肺の一因として認識され、健康診断の義務化などの措置がとられました。
1970年代
次に、制定されたのが特化則です。1971年に制定された特化則により、アスベストに関する具体的な規制が開始されました。アスベスト作業場において、排気装置の設置や保護具の着用が義務付けられます。
特化則の制定の翌年である1972年には労働安全衛生法が改正され、アスベスト被害者の健康診断費用の負担軽減などが図られました。さらに、1975年には、アスベスト吹き付け作業の原則禁止など、特化則の改正が行われ、アスベストへの対策が強化されました。
これにより、5重量%を超える吹き付け作業が原則として禁止となり、具体的には、100gに含まれるアスベスト量を5g以下に抑える規制です。しかし、この改正の意図は、おもにばく露対策を中心としたものであり、強い規制措置には至りませんでした。
1990年代
1995年に、ようやく実質的な規制がとられます。アモサイトとクロシドライトの製造と使用が禁止され、アスベスト対策がより厳格化されました。
2000年代
2004年には石綿を含む10品目の製造が禁止され、アスベスト製品の使用がさらに制限されました。そして、2006年にはアスベスト含有量が0.1重量%を超える製品の製造や使用が禁止され、アスベスト製品の全廃が実現しました。
2012年には猶予期間も終了し、建築や製造現場でのアスベスト使用は、事実上なくなりました。
アスベストの対策方法や分析のおすすめ
現在、法律によってアスベストの製造や使用が規制されており、建物の改修、解体時にはアスベスト対策が義務付けられています。作業員の安全を守るため、法令に基づく詳細な分析が不可欠であり、対策や分析にはしっかりとした知識や技術が求められます。対策・分析には何が必要なのでしょうか。
基本的な知識
アスベストは建材に含まれている可能性がありますが、世の中には無数の建材が存在します。アスベスト調査の際には、まず建材の組成や各構成物質に関する基本的な知識が必要です。
また、分析対象の建材の施工状況や、暴露環境、劣化の履歴などの情報収集も求められます。さらに、アスベストを分析する際には、光学顕微鏡などの分析機器の基本操作に加え、分析方法や鉱物に関する基礎的な知識も不可欠です。
流れを理解する
確実に調査・分析を進めるには、調査・分析の流れを理解しておくことが重要です。書面調査、現地調査を実施し、石綿含有が明らかでなければ試料を採取し、分析を行います。
まず、書面調査において、現地調査の計画を立て、石綿全面禁止以降の建築物であることを確認します。注意すべきポイントは、書面調査は現地調査の前段階としての位置づけであり、全廃以降の建築物である場合を除いて、現地調査を省略する根拠にはならないことです。
記録がすべて文書で残っているとは限らないからです。事前調査で不明な場合は、石綿則に基づく分析調査が必要なので、適切なばく露対策をとって臨みましょう。
安全に留意する
現地調査の際には、建材の取り外しは可能な限り避けましょう。やむを得ない場合には、呼吸用保護具などを着用して作業することが望ましいとされています。
能力向上の意識をもつ
アスベストの分析は非常に難易度が高く、わずかな量でも検出することを求められます。よって、より適切な分析方法を選択し、過去の事例なども参照しながら学習するなど、分析担当者はみずから訓練して能力向上に努めなければなりません。
まとめ
法律や規制の整備を経て、現代ではアスベストは全廃されましたが、その危険性が認識されるまで、長い道のりがありました。奇跡の鉱物と呼ばれたアスベストの完全撤廃まで、長い年月に及ぶ法改正があったのです。しかし、アスベストが使用された建物はまだ多く残っているため、解体や改修の際には適切な除去作業や対策をとることが求められます。アスベストの分析・除去は簡単な作業ではありません。危険性の認識と、十分な注意・対策が必要な作業です。