
アスベスト(石綿)は微細粉じんが健康被害を招くため、解体から廃棄まで厳しい手順と法的管理が必要です。本記事では、事前調査・養生・湿潤化・二重梱包・マニフェスト制度・運搬許可・処分場での受入基準、元請けの責任や現場の注意点まで、実務で押さえるべきポイントをわかりやすく解説します。
石綿含有廃棄物の処理フローをわかりやすく解説
石綿(アスベスト)は、飛散すると健康被害を引き起こすおそれがあるため、廃棄する際には法律に基づいた厳格な手順を踏む必要があります。ここでは、石綿含有産業廃棄物の処理フローを解説します。
事前調査を依頼
まず、解体やリフォームを行う前に、石綿の有無を確認する事前調査を行う必要があります。調査は石綿含有建材調査者などの資格をもつ専門家が行い、建材の種類や含有率、使用部位を特定します。
調査結果は石綿障害予防規則などにもとづき、電子システムを通じて労働基準監督署や自治体への報告が義務付けられています。未報告や虚偽報告は罰則対象となるため、注意しましょう。調査時には、採取サンプルの分析方法や検査機関の信頼性を確認しておくと、のちのトラブル防止につながります。
解体・リフォーム工事の計画を作成
調査結果をもとに、作業方法や飛散防止措置を盛り込んだ工事計画を策定します。計画書には養生の方法や防護具の種類、廃棄物の梱包・搬出方法、緊急時の対応策などを明記します。
また、工事開始前に関係機関への届出を済ませておきましょう。
必要に応じた工法によって作業開始
石綿の飛散性が高い場合は、湿潤化や囲い込みといった法律で定められた工法を採用します。作業員は防塵マスクや使い捨て防護衣を着用し、作業区域外への飛散を防ぐために負圧集じん装置を使用します。作業中は定期的に粉じん濃度を測り、安全性を確保します。
石綿含有廃棄物の搬出
取り外した石綿含有廃棄物は、湿潤状態を保ったまま厚手のポリエチレン袋で二重に密閉します。外袋には石綿含有産業廃棄物と明確に表示し、飛散や破損のないように慎重に現場外へ搬出します。梱包時には袋の破れや口のゆるみがないかを入念に確認します。
最終処分場または中間処理施設への運搬
搬出された廃棄物は、特別管理産業廃棄物の収集運搬許可をもつ業者によって運搬されます。運搬にはマニフェスト制度が適用され、処理の流れを記録・管理します。中間処理施設では、溶融や固化などによる無毒化が行われ、最終的には管理型最終処分場で安全に埋立処理されます。
石綿処理における元請けの法的責任と実務ポイント
石綿を含む廃棄物を処理する際には、実際に作業を行う下請け業者だけでなく、元請け業者にも大きな法的責任が課されます。現場管理や契約内容の確認、処理状況の追跡など、実務上のポイントを押さえることで、安全かつ適正な処理へとつながります。
許可業者への委託と契約書の作成
石綿を含む建材や廃棄物の処理は、必ず都道府県知事などの許可を受けた産業廃棄物処理業者に委託しなければなりません。元請け業者は、解体工事業者や処理業者の許可の有無を事前に確認し、許可証の写しを保管することが重要です。
また、委託契約書には、処理の対象物や数量、運搬・処分方法、費用、責任分担などを明記し、双方が署名・捺印する必要があります。不適正な契約や無許可業者への委託は、元請け業者にも責任が及び、罰則の対象となるため注意が必要です。
マニフェストの交付
石綿含有廃棄物の処理では、産業廃棄物管理票(マニフェスト)の交付が義務付けられています。マニフェストは、廃棄物の種類、数量、運搬業者、処分業者、処分方法などを記載し、廃棄物の流れを追跡・管理するための書類です。
元請け業者は、工事開始時にマニフェストを作成し、処理の各段階で受領書を確認して保管します。最終補文が完了したことを確認できない場合は、不適正処理や不法投棄のリスクがあり、元請けに法的責任が発生する可能性があります。
適正処理の確認
元請け業者は、委託業者に任せきりにせず、現場の処理状況を確認する義務があります。たとえば「石綿含有廃棄物が飛散しないように密閉梱包されているか」「適切な保管場所で管理されているか」「運搬車両が飛散防止措置を講じているか」などをチェックします。
また、処分施設での受け入れ状況や処分方法も確認し、記録を残すことで、後から処理内容を証明できるようにしておくことが大切です。
安全管理と周辺住民への配慮
石綿は吸い込むと健康被害を引き起こすため、現場作業員への安全教育や保護具の着用を徹底する必要があります。作業区域を隔離し、負圧集じん装置を使用して粉じんの飛沫を防ぐことも重要です。
さらに、近隣住民への事前説明や工事予定の周知、作業中の粉じん抑制措置など、周辺環境への配慮も元請けの責任範囲です。こうした対策を講じることで、トラブルや苦情を未然に防げます。
法令違反時のペナルティ
席綿処理に関する法令に違反した場合、元請け業者には厳しい行政処分や刑事罰が科されることがあります。たとえば、無許可業者への委託やマニフェスト不交付、不適正処理を行った場合には、法人・個人問わず罰金刑や懲役刑が科されるおそれがあります。
また、自治体からの指名停止や公共工事入札の制限など、事業継続に大きな影響をおよぼす処分を受けるケースもあります。そのため、法令順守を徹底し、記録の保存や社内教育の強化が不可欠です。
実際に、過去には不適正処理によって元請け企業が数百万円規模の罰金や社会的信用の失墜を招いた事例も報告されています。
石綿処理でよくあるミスとは?現場で見落としがちな4つの注意点
石綿処理の現場では、法令やマニュアルに沿って作業していても、細かい部分でミスが起こることがあります。こうした見落としは、法的責任や健康被害につながるため、事前に防ぐ意識が欠かせません。
二重梱包・湿潤化不足
石綿含有廃棄物は、飛散防止のために湿潤化したうえで二重梱包することが求められます。しかし、現場では袋の口をしっかり閉じていなかったり、湿潤化が不十分だったりするケースが見受けられます。
湿潤化が不十分な状態では作業中や運搬時に粉じんが飛散しやすくなり、作業員や周辺住民の健康被害のリスクが高まります。二重梱包も、内袋・外袋ともに厚みや耐久性が基準を満たしているかを確認することが重要です。袋の材質や強度が不十分だと搬出時に破損し、粉じんが周囲に拡散する危険があります。
非許可業者への委託
石綿含有廃棄物を扱うには、都道府県知事などからの産業廃棄物処理業の許可が必要です。しかし、コスト削減やスケジュールの都合から、無許可の業者に委託してしまう例があります。
これは重大な法令違反であり、元請け・発注者にも責任がおよびます。委託前には必ず許可証の原本や写しを確認し、有効期限や許可品目が適切かどうかをチェックすることが欠かせません。
事前調査報告の漏れ・虚偽記録
解体やリフォームの前には、石綿の有無を確認する事前調査が義務付けられています。しかし、この調査結果を報告し忘れたり、実際とは異なる内容を記載したりするケースがあります。
こうした不備や虚偽記録は、重大な行政処分や刑事罰の対象となる可能性があるため、調査時には第三者のチェック体制を整えることが望まれます。また、調査記録は一定期間保管し、必要に応じて行政や関係者に提示できるようにしておくことが大切です。意図的な虚偽記録は悪質と判断され、刑事罰の対象となる可能性があります。
書類・マニフェストの記載ミス
石綿処理では、マニフェストや各種報告書の正確な記載が不可欠です。数量や品目の記載漏れ、運搬業者や処分業者の名称の誤記、日付の記入ミスなどは、書類不備として扱われ、行政から是正指導や罰則を受けることがあります。
記載後は必ず複数人での確認を行い、データ入力や転記の際にもチェックリストを用いてミスを防ぐ仕組みを作ることが有効です。小さな記載漏れや誤字でも、訂正や再提出に時間がかかり、工程全体の遅延につながります。
まとめ
アスベストの処分は、事前調査から工事計画、飛散防止措置、適切な梱包・運搬、そして最終処分場での処理まで、すべての段階で法律に基づいた厳格な管理が求められます。とくに元請け業者には、委託契約やマニフェストの管理、現場確認などの法的責任が課されており、違反すれば厳しい処分を受ける可能性があります。適正な処理を徹底することは、作業員や周辺住民の健康を守るだけでなく、企業の社会的信用を維持するためにも欠かせません。ルールを正しく理解し、確実な対応を行うことが、安全で持続可能な工事の実現につながります。