解体工事を行う建物にアスベストが含まれている場合は、特別な工事が必要になります。その工事にもいくつか種類があり、代表的なのが「封じ込め工法」と「囲い込み工法」です。本記事では、アスベストとはそもそも何かという疑問をはじめとして、工法ごとの特徴、違いについてもまとめて紹介します。
アスベストの概要
アスベストとは、石綿と呼ばれる天然鉱石であり、1955年から2006年頃まで建物の耐火性や防音性を高める目的で広く使用されてきました。
その優れた耐熱性や加工のしやすさから、鉄骨や柱への吹付けや、アスベストと他の材料を混ぜた成形板として利用されてきたのです。しかし、アスベストを吸い込むことが呼吸器疾患や肺がんを引き起こすリスクが明らかになり、多くの訴訟や健康被害の報告が相次ぎました。
そのため、2006年9月には、0.1重量%を超えるアスベストを含む製品の製造や使用が禁止されました。ただし、これ以前に建設された建物には未だにアスベストが含まれている可能性があり、特に解体やリフォーム時に注意が必要です。
アスベストには主に「アモサイト(茶石綿)」「クロシドライト(青石綿)」「クリソタイル(白石綿)」の3種類があり、これらが規制対象となっています。また、2008年2月には新たに「トレモライト」「アクチノライト」「アンソフィライト」の3種類も規制に加えられました。
アスベストを含む建材は、工法や材料の密度によって「吹付け材」「保温材」、成形板」の3つに分類されます。吹付け材は鉄骨や天井などに使用され、保温材は断熱目的で使用されるもの、成形板は主に耐火や耐久性を高めるために用いられています。
これらの建材は、経年劣化や震動によってアスベストが飛散する危険があり、適切な管理や除去作業が必要です。
封じ込め工法、囲い込み工法それぞれの特徴
ここでは、アスベスト除去の工法として代表的な2種類を見ていきましょう。
封じ込め工法
アスベストの封じ込め工法(エンカプスレーション工法)とは、建物内のアスベストに溶剤を吹きかけて固定し、アスベストが飛散しないように封じ込める方法です。
この工法は、除去作業に比べて作業時間が短く、費用も抑えられます。また、作業中にアスベストが飛散するリスクが低いため、除去作業ほど厳重な下準備は不要です。
ただし、作業によって粉じんが発生する可能性がある場合「特定粉じん排出等作業実施届出書」を作業開始の14日前までに提出する必要があります。この方法ではアスベストを完全に除去するわけではないため、作業後も定期的な点検が必要です。
また、最終的に建物の解体時にはアスベスト除去作業が必要となるため、結果的に除去工事を最初から行った場合よりも費用がかさむ可能性があります。
囲い込み工法
囲い込み工法(カバーリング工法)とは、アスベストが露出している部分をそのままに、板状の材料など非アスベスト材を外側から取り付けて密封し、アスベストの飛散を防ぐ方法です。
主に天井や梁にアスベストが使用されている場合に採用され、室内へのアスベストの飛散を防ぐ役割を果たします。この工法も、除去工事よりは工事期間が短縮され、作業中の安全管理が容易です。
しかし、この方法では天井が低くなったり、他の構造に手を加える必要が生じることもあります。また、封じ込め工法と同様に、アスベスト自体を取り除くわけではありません。そのため、定期的な点検が求められ、建物の解体時にはアスベスト除去作業が必要になります。
アスベストレベルによる違い
アスベストの飛散レベルは、発じん性の高さに応じてレベル1からレベル3に分類され、それぞれ異なる安全管理が求められます。
以下に各レベルの概要を説明します。
レベル1
レベル1の建材は、石綿を1重量%以上含有する吹付け材で、特に耐火建築物の柱や天井、エレベーター周りなどに使用されます。
これらの建材はアスベスト濃度が非常に高く、発じん性も極めて高いため、工事時には作業場所の完全隔離、保護衣や高性能防塵マスクの着用、集塵機の使用、廃棄物の二重袋詰めなど厳重な防止対策が必要です。
また、作業前には「特定粉じん排出等作業実施届出書」の提出が義務付けられています。
レベル2
レベル2の建材は、石綿を1重量%以上含有する保温材、耐火被覆材、断熱材などで、主に配管や空調ダクトの保温材、屋根用断熱材、柱や梁の耐火被覆材として使用されます。
レベル1に比べて飛散性はやや低いものの、アスベストの密度が低く軽いため、崩れると大量の飛散が発生する可能性があります。工事の際には、レベル1と同様に厳重な暴露防止対策が求められますが、保護具は多少簡易的なものでも良い場合が多いです。
レベル3
レベル3の建材は、主に板状の硬い成形材で、床のタイルや屋根材、外壁材として使用されることが多いです。
このレベルはレベル1やレベル2に比べて硬く、割れにくいため飛散リスクが比較的低いとされています。しかし、アスベストを含むことに変わりはなく、作業時にはレベル1やレベル2と同様の暴露対策、廃棄物の二重袋詰め、飛散防止対策の実施が必須です。
まとめ
アスベストを含む建物の解体工事には、主に「封じ込め工法」と「囲い込み工法」の2つの代表的な対策があります。封じ込め工法は、アスベストに溶剤を吹きかけて固定し、飛散を防ぐ方法で、作業が比較的短期間で済み、費用も抑えられますが、定期的な点検が必要です。一方、囲い込み工法は、アスベストを非アスベスト材で囲い密封する方法で、安全性が高いですが、天井が低くなるなどの影響があります。いずれの方法も、アスベストのレベルに応じた適切な安全対策が求められ、長期的には除去作業が必要になることもあります。